2013年に開催された「 第一回一中節演奏会」に近藤誠一様よりお寄せいただいたお言葉

 

2014年10月19日



2013年10月15日に国立劇場にて開催いたしました都一中音楽文化研究所主催「第一回一中節演奏会」にお寄せいただいた近藤誠一様のお言葉が非常に素晴らしく、ぜひ皆さんにお読みいただきたいと思いご本人に掲載のお許しを頂きましたのでご紹介いたします。

 


第1回一中節演奏会に寄せて
近藤誠一(東京藝術大学客員教授、前文化庁長官)様


日本の長い歴史の中でも、国民のあらゆる階層が文化を楽しみ、毎日の生活の糧としたという点で、江戸時代に勝る時代はない。古代以来長い時間をかけて成熟してきた日本の文化がそのピークに達した時期ということもできる。長屋の熊さん八つぁんでさえも、朝起きると自然に三味線の音色が耳に入った。この文化的蓄えがあってこそ、その後の欧化政策や富国強兵策が、単なる物真似ではなく日本自身のものとして咀嚼され、国の発展につながったとみることもできる。

その中でも特異な存在が一中節ではないだろうか。さまざまなジャンルや流派に分かれた浄瑠璃の中でも、とくに上品さ、優雅さ、味わい深さの点で一中節に優るものを知らない。

元禄より少し前に京都の明福寺住職の次男として生まれた初世都太夫一中が、京都で三味線音楽を統合して生んだ一中節は、やがて上方のお座敷で愛好された。やがて江戸の都にもちこまれた一中節は、一世を風靡して町人の上流階級に親しまれるようになり、常磐津や清元などの源流ともなった。

一中節三味線の音色の多彩さと浄瑠璃の上品さは、日本人が古来こよなく愛してきた価値観を見事に伝承している。当代都一中さんは、西欧の音楽やその奥にある歴史などへの造詣を深めつつ、現代音楽もその心に刻み、グローバルなコンテキストの中で一中節を通じて日本のよき伝統を世界に広めていくことに情熱を燃やしておられる。今回のテーマ「秘められた日本の美・今・未来へつなぐ」はまさに一中さんの心意気を見事に表わしている。

今回の演奏会を契機に、一中節が300年にわたり継承してきた日本人の美意識と心意気への理解と評価が日本国民の間にさらに広がり、上質な日本の伝統文化の維時に貢献することを心からお祈りする。